地域通貨ねやがわ「げんき」&地域通貨「未杜」

9/10-11に大阪府寝屋川市で行っている地域通貨ねやがわ「げんき」と兵庫県丹波市でおこなっている地域通貨「未杜(みと)」を見にいってきました.どちらも10年近く地域通貨を発行しているという点で,地域通貨の成功事例といってよいと思います.ただ,この二つの地域通貨は制度も目的も違い,今回あらためて多様な地域通貨の在り方を実感しました.

1.地域通貨ねやがわ「げんき」:都市・商品券型・福祉の担い手づくり

さて,NPO法人地域通貨ねやがわで発行している「げんき」ですが,仕組みは商品券タイプで,ボランティアで受け取った地域通貨を商店街でも利用できるというものです.現在の参加状況ですが,中心となるボランティアを行う団体(活動団体)は現在14,ボランティアをしてもらった人や団体(利用会員)の数が75団体+13名の個人,そしてげんきが利用できる商店街,店舗.事務所(貢献会員)が400店舗となっています.ここ最近では,グリーン家電エコポイントの交換対象としてげんき券を発行するということにもなっているようです.日本の地域通貨の中で見ても大規模だということがわかると思いますが,それは639万円相当のげんき券が平成22年度に発行されたということでもわかります.また,地域通貨の啓蒙活動として寝屋川あいの会理事長の三和さんや地域通貨ねやがわの事務局長の二反田さんや石渡さんが精力的に活動しているようです.

「げんき」の特徴を挙げるとすれば,(1)流通地域が都市であること,(2)商品券型の地域通貨であること,そして(3)福祉の担い手づくりが目的となっていることの三点を挙げることができると考えます.(1)は都市の中での流通であり,後ほど見ていく「未杜」とは異なりコミュニティそれ自体の密度は低いかもしれませんし,むしろ商店街が地域コミュニティの中心となっているということが言えます.それは(2)商品券型の地域通貨をとっていることの理由なのかもしれません.商品券型という「形のある」地域通貨を用いていることはボランティア活動のような地域貢献をした証しとなると同時に,その証しを商店街での商品やサービスと交換できるようにすることで商店街にコミュニティの中心があると考えられるからです.そして,それは(3)ボランティア活動の中身にも反映されていると言えます.高齢者への食事提供サービスや和太鼓教室,子育て支援や家事支援など,ニーズはあるが担い手が少ない状況に対して有償ボランティアの担い手を育てていこうとする目的は未杜とはちょっと違うボランティア活動支援の方向性なのかと思います.

そして,抱えている課題も特徴的でした.一つはげんき券の利便性とげんき券の理念とのバランスの問題を話されていました.利便性を挙げれば円に近くなってよいけれども,発行目的が変わってしまうのではないかということでした.この点商店街の方も事務局の側も基本はボランティアをしてげんき券をもらうという方針を変えてはならないという点で一致しているようです.そして,もう一つは運営資金の問題でした.様々な補助・助成金をもらいながら継続しているけれども,長期的に見ればもっと安定的な財源が必要ということでした.大規模でやっている限りこの問題は常にあるようです.

 

2.地域通貨「未杜」:農村・LETS・交流の場づくり

地域通貨「未杜」は兵庫県丹波市にあるNPO法人丹波まちづくりプロジェクト事務局で発行しているLETS型の地域通貨です.年会費2000円,入会時デポジットとして1000円を支払って会員になると通帳カードをもらえて取引ごとに記入していくというLETS方式をとっています.なので,例えば大きくなって乗らなくなった子供用の自転車を新しく子供用の自転車が必要な人に2000未杜で譲ると,自転車をもらった人の通帳には「−2000未杜」,譲った人の通帳には「+2000未杜」が記入されます.場合によっては通帳の残高がマイナスになる場合もありますが,このシステムではそのマイナスは誰かの通帳のプラスになっているので問題有りません.現在会員は140名ほどで,赤井さんを中心に月一回ほどの「井戸端会議」,年四回の季刊紙「未杜新聞」などが行われています.今回訪問時間が少なかったのですが,赤井さんの自宅の事務所に7−8名ほどの方にきていただきお話を伺うことができました.

印象的だったのは,未杜井戸端会議の実施の仕方です.おもしろいのは会員の方が講師になって,子育てや商店街の在り方,外国の教育事情やなどの講演をしたり,お菓子や庭木の剪定教室などを開催していることです.地元の人の持っている能力をコミュニティで活用していくという考え方です.また,これはLETS特有の現象ですが,自分の通帳が赤字になってしまうことを気にかけているようでした.地域の人にいろいろもらったりやってもらっているばかりで通帳が赤字になってしまって,ちょっと気が引けるというようなことでした.これについてどう思うか聞かれたのですが,私は「赤字がでていることはそれだけコミュニティのメンバーができるサービスや財があるということなので,コミュニティが豊かな証拠だ」というような答えをしました.ただ未杜にはプレゼント未杜というのがあって,黒字を持っている人が赤字の人に未杜をあげることができるようです.

さて,未杜の特徴として(1)農村,(2)LETS,(3)交流の場づくりという三つが挙げられます.(2)については既に紹介したのでここでは省略します.(1)についていえば,大都市とは異なり集落の結束が強い農村的な特徴をこの地域が持っているということです.これは(3)にもかかわっていますが,今回参加された会員の方が「昔からのムラのルールに従わせるようなやりかたで地域に参加させるのではなく,未杜のようなオープンや方法で地域に参加させるのが未杜の特徴だ」というようなことを言っていました.これまでずっとこの地域に住んでいる人,Uターンで戻ってきた人,都市から農村へとIターンした人など多様な人々の交流を可能とする場をつくっていくものとして未杜があるのだと言うことでした.この点山?茂・赤井俊子「地域通貨が地方都市農村集落の地域コミュニティ再生に果たしうる役割について−地域通貨「未杜」を事例として−」『創造都市研究(大阪市大)』第6巻第2号51−70頁2010年12月を見ると,主に未杜を使っている「ハブ会員」は地域とのつながりの強い人よりも弱い人であったとの研究成果にも現れています.町内会や自治会や血縁などとは異なるつながりや交流の場を未杜が創っているということです.地域通貨がつくるコミュニティってこれなんだなと今回感じました.